ことばの部屋
作品に出てくる言葉は、字のできかたまで調べてから選んでいます。
そこは物語に書かないので、調べたところだけ、ここに置いておきます。
「下書き」は、まだ手を入れている途中のものです。
- 2026.09.02
「細石」と書いて、さざれし、と読みました
細かい石、が、そのまま名前でした。千年たって、法律の中では、ひらがなになっていました。
『万葉集』に、信濃の千曲川の小石をよんだ歌があります。
そこでは「細石」と書いて、さざれし、と読ませています。
細かい石、小さな石、という意味の、ふつうの言葉でした。あの歌のさざれ石も、はじめは同じでした。
写本には「細れ石」の字もあります。千年あまりたって、平成十一年の法律が、この歌を国歌と定めました。
その別記にある歌詞は——
「さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで」。
巌も苔も、ひらがなでした。字は旅をして、歌はのこりました。
僕がこの夏たずねた神社の立札は「さゞれ石」。
長岡のだんご屋さんの板は「巌をとなりて」。字はゆれ、名はゆれて、
それでも石は、石のまま。小さいまま巌になっても、
さざれ石と呼ばれつづけている。
それが、いちばんすきなところです。「信濃なる千曲の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ」 ── 『万葉集』巻十四(東歌)。「細石」に「さざれし」の訓
「わが君は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで」 ── 『古今和歌集』巻第七 賀歌、題しらず・読人しらず
歌詞「さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで」 ── 国旗及び国歌に関する法律(平成十一年法律第百二十七号)別記第二。e-Gov法令検索の本文で照合
「さゞれ石」 ── 笠間稲荷神社の立札(2026年8月9日 実見)
「巌をとなりて」 ── 江口だんご本店の説明板(2026年8月26日 実見)
※くわしくは 全国さざれ石台帳「ことばのこと」へ - 2026.08.12
「名」という字に、なぜ夕方が入っているのか
夕方は、暗くて顔が見えません。見えないから、口で名のる。それが名という字でした。
『説文解字』に、名は口と夕でできている、とあります。
夕は、暗いこと。暗いと、たがいの顔が見えない。見えないから、口で名のる。
それが名という字の始まりだ、と書いてあります。明るいところでは、名前は要りませんでした。
名前のことを、氏名とも言う。
使命とも重なる。だから僕は、名前には使命が宿っており、
使命如く生きることができるように、
一生懸命生きてます。「名:自命也。从口从夕。夕者,冥也。冥不相見,故以口自名」 ── 『説文解字』口部
※本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「強」は、もともと虫の名前でした
米を食べる小さな虫の名前です。強いという意味は、あとから借りてきたものでした。
『説文解字』という古い字書に、強はある虫の名前だ、と書いてあります。
米を食べる、小さな虫です。強いという意味は、あとから音を借りて乗せたもの。
もとの虫は、字の中に残ったまま、忘れられました。いま強いと書くとき、右下に虫がいます。
僕は、弱い人間だから、
どうしたら強くなれるか考えた。その一つの答えが、
応援される人間になることだった。早くそうなれるように頑張ります。
「強:蚚也。从虫弘聲」 ── 『説文解字』虫部
※蚚は米を食う小さな虫
※本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「幸」の字は、手かせの形からきているといいます
罰の道具です。それを免れたことが、さいわいだった。試練の形が、そのまま幸せの形になっています。
幸は手かせの形だ、という説があります。
両手をはめて、動けなくする道具です。
その道具を免れたことが、さいわいだった。辛いに一本足すと幸せになる、とよく言われます。
字書では、別々の字です。ただ、いちばん古い字書に、こうありました。
「辛は、一と、罪を意味する字から成る」
「辛さは痛くて、すぐ涙が出る」幸せと辛いは、紙一重。
そう思っていました。字書は、別の字だと言います。
それでも、どちらにも罰の影がありました。「幸:所以驚人也」 ── 『説文解字』幸部
「辛:秋時萬物成而孰;金剛,味辛,辛痛即泣出」 ── 同 辛部
※同じ項に「一と、罪を意味する字から成る」とある(原文の字は拡張漢字のため、ここでは書き下す)
「吉而免凶也」は、幸の古い形について『広韻』が引く説
手かせの形とするのは白川静の説 ── 『字統』
※定説ではない。白川文字学には学界からの批判もある
※「辛に一本足すと幸」は字形の言い習わし。字源の上では、幸と辛は別の字
※『字統』の現物には当たっていない
※説文解字の本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「働」は、日本で作られた字です
人が動く、と書きます。よそには無かった字で、こちらで作られました。誰かが、人の動くところを見て、字が足りないと思ったのだと思います。
人と、動。
中国から来た字ではなく、こちらで作られた字です。動くだけなら、動、で足ります。
そこへ人を足した人がいた、ということになります。いまは中国でも使われますが、日本から渡ったものだそうです。
なぜ足りないと思ったのかは、書かれていません。
働き方は、立場によって、時代によって、変わってきた。
一度限りの人生なんだから、
選んだ道は、間違えられない。正しい働き方、道を教えてください。
『説文解字』に見出しは無い ── ctext.org で確認
『康熙字典』にも見出しは無い ── 「頁116第04」は、載っていない字に与えられる「あるとすればこの位置」の印
国字(和製漢字)とする記述 ── 辞典・事典
中国語で使われる働は、日本語からの借用とされる
※国字であることの断定は二次資料による。中国の字書に「無い」ことだけ、こちらで確認した - 2026.08.12
「協」には、力が三つ入っています
十と、力が三つ。一つでは足りないから、三つ書いたのだと思います。
十と、劦でできています。
劦は、力を三つ書いた字。字書では「同じ力なり」。十は、数の十ではありませんでした。
「一は東西、丨は南北。四方と中央、これで備わる」
足りている、という印です。古い形では、叶と書いたそうです。
十は、ヒ・フ・ミ……トウ。
小さきものを、一つも数え落とさぬこと。力が三つは、自力・他力・釈迦力。
自分の力は、そのうちの一つでした。そう読んでいます。
「協:眾之同和也。从劦从十」 ── 『説文解字』劦部
「劦:同力也。从三力」 ── 同 劦部
「十:數之具也。一為東西,丨為南北,則四方中央備矣」 ── 同 十部
「叶」は協の古文 ── 『玉篇』(『康熙字典』所引)
※『玉篇』の現物には当たっていない
※説文解字の本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「石」という字は、崖と、その下のかたまり
崖から落ちて、下にあるもの。石という字は、落ちたあとの姿を書いています。
『説文解字』に「石は山の石なり。厂の下に在り」とあります。
厂は、崖の形。その下のかたまりが、石。崖から落ちて、下にあるもの。
石という字は、落ちたあとの姿を写しています。落ちる前のことは、書かれていません。
石と、意志と、遺志と、遺子。
すべて、いし。大切な言葉、音には、
大切なことが潜んでいるのですね。「石:山石也。在厂之下;囗,象形」 ── 『説文解字』石部
※本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「ありがとう」は、有ることが難い、と書きました
めったにない、という意味です。めったにないことに出会ったとき、人は礼を言うようになりました。
有ることが、難い。
めったに無い、という意味の古い言葉です。『枕草子』に「ありがたきもの」という段があります。
そこに並んでいるのは、感謝ではなく、めずらしいものでした。字書のほうも、似たことを言っています。
有につけた言葉は「宜しく有るべからざるなり」。
例えに挙げてあるのは、日食と月食でした。
あるはずのないものが、そこに在る。それが有だといいます。礼の言葉になったのは、あとからです。
ありがとう、と言うたびに、
めったに無いことでした、と言っている。当たり前だと思っていたことは、
一つも当たり前ではありませんでした。そこに気づける人で、いたいです。
「有:不宜有也。《春秋傳》曰:日月有食之。从月又聲」 ── 『説文解字』有部
「ありがたきもの」の段 ── 『枕草子』
※「舅に褒めらるる壻」「毛のよく抜くる銀の毛抜き」など、めったに無いものが並ぶ
※『枕草子』は校訂本の現物には当たっていない
※説文解字の本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「思う」の上の田は、もとは頭の形だといいます
赤んぼうの、頭のやわらかいところを写した字だといいます。その下に、心があります。
上の田は、もとは田ではありませんでした。
囟という字です。ふだん見かけません。
赤んぼうの頭の、骨と骨のあいだ。
まだ閉じていない、やわらかいところ。
日本語では、ひよめき。字書は「頭の骨の合わさるところ。脳のふた」と書いています。
その形を写した字だそうです。その下に、心。
ただし字書は、意味を持っているのは心のほうだ、と書いています。
囟のほうは、音を担っているだけでした。思うという字は、二つでできていました。
思考という漢字は、
心が先で、頭が後なんですね。この順番を大切に生きています。
「思:容也。从心囟聲」 ── 『説文解字』思部
从心=心に从う(意味は心のほう)。囟聲=囟は音のほう
「囟:頭會,匘蓋也。象形」 ── 同 囟部
頭會=頭の骨の合わさるところ。匘蓋=脳のふた。象形=形を写した字
ひよめき=泉門・囟門(新生児の頭の、骨と骨のあいだに残る膜のところ) ── 『世界大百科事典』
※説文解字の本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
紙垂は、なぜギザギザなのか
「しで」は「垂づ」から。垂れるもの、という名前でした。あの形は、雷を写したものだといいます。
しでは、垂づ、という古い動詞からきています。
しだれる、と同じ根。垂れるもの、という名前でした。紙と書きますが、もとは布でした。
『古事記』の天の石屋のくだりに出てくる白和幣・青和幣が、その原型だといいます。ギザギザは、雷を写したもの。
雷が鳴れば雨が降り、田が実る。
縄が雲、紙垂が雷、垂れた藁が雨。そう説く神社もあります。こわいものを、いちばん高いところに飾ってあります。
雷が鳴らなければ、その年の米は実りません。
消したかったもののほうが、実らせる側にいました。僕も、そう飾れるようになりたいです。
「しで」は動詞「垂づ」の連用形 ── 国語辞典
「下枝に白和幣・青和幣を取り垂でて」 ── 『古事記』上巻 天の石屋の段
※「丹寸手」の表記は、確かめた本文には無かった
※雷を写したとする説、縄=雲・紙垂=雷・垂れ藁=雨の対応は神社の説明による。典拠は確かめていない - 2026.08.12
「学ぶ」の子の上には、まだ明けていない蓋があります
字書の言葉は「目がさめること」。子の上の蓋には「なお、くらし」と書いてありました。
字書が学ぶにつけた言葉は、「覺悟」。
目がさめること、気づくこと、という意味です。
いまの日本語の覚悟(決意)とは、少しちがいます。学ぶの下には、子がいます。
その子の上に、蓋がひとつ。字書は、その蓋にも言葉をつけていました。
「なお、くらきなり」。
まだ明けていない、という意味です。明けていないことまで、字の部品になっていました。
授かれるように、
閃きを、大切にして生きていきます。「斆:覺悟也。从教从冂。冂,尚矇也。臼聲」 ── 『説文解字』教部
覺悟=目がさめる・気づく。尚矇=なお、くらい
學は斆の篆文(省いた形) ── 『康熙字典』所引の説文
※説文解字の本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.08.12
「閃く」は、門から頭をのぞかせることでした
字書の言葉は「門の中で頭をのぞかせる」。隠れていたものが、ふっと顔を出すことです。
閃くという字の中には、門があります。
その門の中に、人がひとり。字書がつけた言葉は「門の中で頭をのぞかせる」。
隠れていたものが、ふっと顔を出す。
それが閃く、でした。門が閉まっていたら、のぞけません。
僕の人生を振り返れば、
多くの成功は、ひらめきから授かったもの。僕のような人間に、
アイディアを授けてくれて有り難う。邪剣を抜かないように気をつけます。
「閃:闚頭門中也。从人在門中」 ── 『説文解字』門部
※闚は、のぞく
※本文は ctext.org の電子化本文で照合ひとことの「邪剣」について
「『正剣』を抜いたら成功、『邪剣』を抜いたら墓穴を掘る」 ── 稲盛和夫『生き方』
邪剣=濁った願望。自分のためだけに損得を弾く、私利私欲の混じった思い
ワコール創業者・塚本幸一氏の話として紹介されている
※頁は確かめていない - 2026.08.02
注連縄は、なぜ「注いで連ねる」と書くのか
結界を張る縄、と教わります。けれど字は、まったく別のことを言っています。
辞書には、書き方が三つ並んでいます。
標縄。注連縄。七五三縄。
当て字の印が付いていないのは、標だけでした。標は、しるし。
七五三は、垂らす藁を三筋、五筋、七筋と数えたところから。
注連は、中国で死者の出た家の門に、水を注いで連ねた縄。霊が戻ってこないように張ったといいます。『古事記』にも、同じことが書いてあります。
天照大御神が岩戸から出たあと、布刀玉命が縄を張って言いました。
「ここより内にな還り入りたまひそ」入れないための縄ではありませんでした。
出ていったものを、戻さないための縄でした。縄に縛られる人生が、
一度や二度あるとしたら・・・
注連縄で縛られる人生を送りたい標縄・注連縄・七五三縄の三表記と、当て字の印 ── 国語辞典の見出し
「ここより内にな還り入りたまひそ」 ── 『古事記』上巻 天の石屋の段
「注連」は中国で、死者の出た家の門に張った縄 ── 国立国会図書館レファレンス協同データベース ほか
※中国側の由来は一次資料に当たっていない - 2026.07.19
「巌」に、なぜ敢の字が入っているのか
岩ではなく巌と書くとき、そこには「あえて」が含まれています。
巌は、山と厳でできています。
厳の中に、敢が入っている。敢は、あえて、と読みます。
思いきってする、という意味です。岩と書けば、ただそこにある石。
巌と書けば、字の中に「あえて」が残ります。巌になるためには、
どの山に登るか。
その覚悟が大切なのかもしれませんね。優しい道より、厳しい道も、
選べるように頑張ります。「巖:岸也。从山嚴聲」 ── 『説文解字』山部
「嚴:教命急也。从吅□聲」の□は、厂に敢と書く字 ── 同 吅部
その字は「崟也。从厂敢聲」 ── 同 厂部。つまり音符の中に敢がある
※本文は ctext.org の電子化本文で照合 - 2026.07.05
細い、という字は糸と田でできている
細るのではありません。細いとは、分けられて、なお続くことでした。
糸という字は、束ねた糸の形だといいます。
一本では切れるものを、何本も束ねて、一本にしている。『説文解字』には「細は微なり、糸に从い囟の声」とあります。
いま田に見えるところは、もとは囟でした。
思うという字の上にあるのと、同じ字です。細いは、少ないことではありませんでした。
分ければ細くなる。それでも、糸は糸のまま続きます。生まれたのは、細谷町。
その細いを、物語の谷川に埋めてあります。
歴史の話ではありません。作った者だけが知っている、一字の一致です。「細:微也。从糸囟聲」 ── 『説文解字』糸部
「糸:細絲也。象束絲之形」 ── 同 糸部
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